情報サービス産業の今を俯瞰する(その8)
しばらくはこのテーマでシリーズものをエントリをします。
また少しシリーズものをエントリします。
内容としては、情報サービス産業の現状を理解し、また中小派遣型受託開発ソフトハウスの課題や解決策を探るべく、ちょろちょろと以前に書いていたメルマガがベースになっています。
特定の企業だけでなく多くの中小派遣型受託開発ソフトハウスに当てはまる内容かと思っています。
ぜひご批評を頂ければと。
それではどうぞ。
現状の情報サービス産業についての情報展開のVol.8です。
自分たちの置かれている産業の実態、変わりつつある時流を感じてもらえればと思います。
●大手ベンダの抱える課題への対応
1.前回までの振り返り
前回は、大手ベンダから見たこの産業の問題点を見てきました。その結果、スケールの大きさでは異なるものの、本質的には我々中小ベンダの抱える問題点とほぼ同じテーマであることがわかりました。
我々は問題を乗り越えるための経営課題として、「プロダクト、サービスの高付加価値化」「労働集約から知識集約への転換」を挙げましたが、大手ベンダは問題を乗り越えるためにどのような課題を挙げているのでしょうか。
また、そこに課題解決のヒントを探る事はできないでしょうか。
今回はそこを見ていきます。
2.情報サービス産業白書に見る業界構造の展望
では、大手ベンダは前回見たような問題に対して、どのような対策を行おうと考えているのでしょうか。特に業界構造に特化して見ていきましょう。
添付資料を同時に参照しながら以下の解説を見てください。
・資料はこちらからダウンロードしてください
資料をダウンロード(PDFファイル、1.8MB)
(1)コラボレーション型・ビルディングブロック型の業界構造
まずは添付資料の3ページ「(1)5~10年後の業界の展望(1/4)」を参照してください。
2つの業界構造が記載されています。左側が現在の業界構造で、右側が5~10年後の業界構造の展望です。
これまでの多重下請構造ではなく、コラボレーション型ベンダと、ビルディングブロック型ベンダの2種類に大きく分けられています。
ここでいうコラボレーション型ベンダとは、顧客のビジネス要件の実現のために、顧客業務をよく理解しイコールパートナーとなってSIを行うベンダ群のことを示しています。
顧客業務に習熟し、コンサルティングを行えるだけの知識やノウハウを保持し、システム開発に活かすというイメージです。実際は現在のプライムベンダや大手受託ソフト開発企業が担います。
もう1つのビルディングブロック型ベンダは、ある特定領域に特化して独自のプロダクトやサービスを持つ専門企業のことです。例えば、スマホの技術やクラウド、特定の組込機器に対して強みを持ち、独自のプロダクトやサービスを国内・海外市場に展開しています。
大手顧客のシステム開発では、コラボレーション型ベンダが受託し、ビルディングブロック型ベンダからプロダクトやサービスを提供してもらい、それを統合して、システム全体を早期に構築するというイメージをもっています。
SaaS型で提供されたサービスや、固有プロダクトとのシステム統合なので、技術の方向性としてはSOA(Service Oriented Architecture)が用いられるのでしょう。特にWeb-APIなどの、HTTP や XML を用いたシステムインタフェースが重要になっていくかもしれません。
このように、スクラッチ開発をできるだけ行わず、カスタマイズも極力発生させない方法で、複数のシステムやプロダクトを有機的に結合・統合するというインテグレーション能力が重要になります。また、単に技術的な統合だけでなく、顧客ビジネスの運営がスムーズに行われるように、ビジネスプロセスに併せた運用形態を提供するなど、ビジネスニーズにより密着した統合の形態がとられると思います。
これらのインテグレーション能力は、コラボレーション型ベンダの核のスキルとなります。ビルディングブロック型ベンダは、特定領域に特化した専門性のあるプロダクトやサービスを提供することが核のスキルとなります。更に言えば大手ベンダはOSSに基づく技術を求めていると思います。なぜかというとそのほうがコストが抑えられるし、OSSの対応領域が今現在どんどん広がっている状況なので、今後はOSSをカスタマイズする能力が重要になるからです。
労働集約的な受託開発は価値が低くなり、今後はできるだけ回避するという流れを想定しています。
詳細は添付資料の4ページ「(1)5~10年後の業界の展望(2/4)」を参照してください。
(2)業界変化の展望
次に5ページ「(1)5~10年後の業界の展望(3/4)」を見てください。
ここには3つの業界構造変化と、2つの顧客・競合との関係変化を、業界の課題として挙げています。
このページは読んでいただければ分かるかと思います。ここに挙げられている課題も、我々の経営課題と類似していることが伺えると思います。
労働力の提供によって対価を得る、というビジネスモデルは完全にはなくなることはないと思います。しかし、国際競争力という面からも、生産性の向上は大手ベンダの至上命題です。生産性を向上させるには、知識集約されたプロダクトやサービスを利活用することが必要です。
となれば、そのプロダクトやサービスを提供しているビルディングブロック型ベンダから調達してきます。中途半端なプロダクトは不要なので、特定領域の専門的なプロダクト、サービスを求めることになると思います。
その特定領域をどこにするかが、ビルディングブロック型ベンダの頭の悩ませどころなのでしょう。ただし本当にただ1つの技術や領域だけに特化することもリスクが高いですから、ある程度分散して技術やノウハウを蓄積することになりそうです。
そうなると、扱っている複数の領域の範囲内では、それぞれのプロダクトやサービスをSOAで統合し、新たな付加価値を出すことも可能になってきます。ビルディングブロック型ベンダが、自社の身の丈にあったコラボレーション型ベンダへと展開していくストーリーは、このようなものであると想定されます。
念のためですが、これらの流れは組込み系でも当然に起こってくることが想定されますし、実際にもう始まってもいます。
Android はその最右翼ですし、Access社のブラウザ NetFront や、アプリックス社の組込向け Java仮想マシン JBlend などの携帯端末メーカ向けの強力なプロダクトを武器にグローバルに活躍している企業もあります。
・Access社
⇒ http://jp.access-company.com/products/nf_mobile/clientsuite/index.html
・アプリックス社
⇒ http://www.aplix.co.jp/jp/index.html
どの領域においても、知識集約をベースにした競争力のあるプロダクトを提供することが求められてきそうです。
(3)業界構造変化へのステップ
6ページ「(1)5~10年後の業界の展望(4/4)」を見てください。
現在の業界構造からどのようにステップアップしていくのかの方向性が示されています。
知識集約に向けたステップでは、ステップ1の「業務知識を顧客に依存」した状態から始まります。その業務を行う中で「個別事例・ノウハウ蓄積」をし、「汎用的な業種・業務知識の蓄積」で汎用化し、「プロダクト化のための業務標準化」を行う、というステップアップが示されています。
これは知識集約の普遍的なステップであろうと思います。ステップ1では、何も知識がないので、顧客に言われるがまま労働力の提供を行います。しかしその中で共通する動作や処理など、個別機能の知識を蓄積していきます。次に、その知識を集約して、他の会社にも通用する汎用的な知識に仕上げていきます。
そうなれば汎用的な知識をベースにプロダクト化が行えるようになります。プロダクト化すれば、今まで労働力を提供していた企業だけでなく、類似企業にもプロダクトを提供することができるようになります。これこそが知識集約の第一歩と思います。
次に、サービス提供型へのシフトに向けたステップが示されています。これも読んでいただければ分ると思います。言われた仕様に合わせて開発をしているだけの第1ステップから、共通化・部品化をする第2ステップ、プロダクト化をする第3ステップと続き、第4ステップではフルターンキーサービス(*1)としてのSaaS提供へと発展します。最終的には、顧客のビジネスを全面的にアウトソースするBPOへと発展します。
(*1)フルターンキーサービス・・・キーをまわせばすぐ使える状態で成
果物引き渡すという意味で、そこま
で全面的に提供することを示します。
パートナー型へのシフトに向けたステップも、読んでいただければわかると思います。第2ステップの、成果物で対価をもらう関係にまで発展できれば、かなりいろんな道が開けます。下請のまま成果物で対価をもらうのは、まだまだ多重下請構造にはまっている中では難しいですが、発想を変えて何らかのプロダクトを提供できれば、それで成果物ベースで対価をもらうことが実現できます。
プロダクトを提供するという事は、エンドユーザを獲得できるという意味もあり、下請からの脱却にも貢献します。一石二鳥です。
3.情報サービス産業白書に見る業界構造の展望
大手ベンダの考える業界構造の展望の概要を見てきました。一番特徴的なのは、やはり生産性の向上、つまり知識集約への転換でしょう。労働集約ビジネスを全面的に否定し、中小ベンダがビルディングブロック型ベンダへと転換することを大手ベンダは望んでいるということです。
顧客の問題や期待に応えるのがビジネスの基本ですから、我々のスタンスとしてもビルディングブロック型ベンダへの転換をするというのは、戦略の方向性として間違っているわけではないと思います。これは、我々の経営課題でいうところの「知識集約」と「プロダクト、サービスの高付加価値化」の両方を実現することとほぼイコールであると思います。
添付資料は7ページ以降もありますが、7ページ以降は、これらの業界変革へのステップを踏まえた上で、我々がどのように考えればこのステップを踏んでいけるのかを、やや具体的に検討した資料になります。
これについては次回に検討してみましょう。
●次回予告
次回は、業界構造変化へのステップになぞらえて、実際に経営課題解決のためにどのような選択肢を採用できるのかを、ちょっと具体的に考えて見ます。
ここで、以前言っていた経営課題に取り組むためのフレームワークが登場します。