受託・派遣型ソフトウェア業の課題:コスト構造(その6)

受託・派遣型の中小ソフトウェア業が抱える課題:コスト構造(その6)

●(4)コスト構造の課題 その2

ここでは、私が認識する受託・派遣型の中小ソフトウェア業のかかえる課題について述べ、解決に向けての情報共有を行いたいと考えている。

「受託・派遣型のソフトウェア業」とは、主にベンダ企業や大手のソフトウェア業のシステム開発を請負または委任契約で受託し、客先の企業内に技術者が常駐して開発を行うタイプの業務形態を示している。世間一般で言う「ソフトハウス」がこれに該当する。

私が本稿で述べたい結論は、「受託・派遣型のビジネス慣習によって、受託・派遣型のソフトウェア開発は、ハイリスク・ローリターンのビジネスモデルになってしまっている」という点である。これではリスクだけ引き受け、リターンは低いという、全くうまみの少ないビジネスと言えよう。

日々生産性向上の施策なども打っているが、なぜか利益が出ないし組織が伸びない、とお悩みのソフトウェア業の方は、ぜひご一読を頂き、ご批評を頂ければ幸いである。

当方の考えるコスト構造に関する課題の結論と、結論に至るまでの仮説は以下である。

●結論

受託・派遣型のビジネス慣習によって、受託・派遣型のソフトウェア開発は、ハイリスク・ローリターンのビジネスモデルになっている。

●仮説

人月単価での発注という慣行によって、組織の生産性向上によって余剰工数が生み出されても、柔軟に仕事をアサインできるマネジメントが存在していない。

論述はおおよそ以下の順に述べることとする。

(4)コスト構造の課題

●前回までのおさらい

前回までは、生産性向上による売上高増加という方策がとれないため、ソフトウェア業は以下の2つの方法を採用することで売上高の増加を達成してきた。

●自社で技術者を雇用する

技術者が増えれば新たな仕事を受注することができる。しかし、不景気などで仕事がなくなってしまった場合は、即赤字となるのでリスクが高い。

●他の協力会社へ発注する

自社で技術者を雇用する必要がなく、仕事があるときは外注し、なければ外注利用をやめることができるのでリスクは低い。

前回は、自社で技術者を雇用する方法について述べた。今回は、他の協力会社へ発注する方法について述べる。

●外注を使えば自社のコスト構造は問題ない・・・のか?

売上高を増加させるための、もう1つの方法である、他の協力会社への発注、もしくは派遣要員の受け入れについて見ていこう。他社への委託も、他社からの派遣要員の受け入れも、コスト構造からすると同じことである。外注を用いるのであれば、外注費は変動費となる。

なぜなら、外注費とは仕事があったときのみ発生し、仕事がなければ外注との契約を切れば費用は発生しないからである。仕事量(販売量)に比例して発生する費用だから、これは変動費である。

このように変動費化することができれば、リスクは小さくなる。なぜかというと、以前に説明したとおり、変動費は利幅は少ないが、仕事の量に関係なく固定的に発生するものではないので、損益分岐点を引き下げる効果を持つからである。そのため、外注費用として変動費化できれば、それが最もリスクを減らす調達手段となろう。

●リスクを下請けに押し付ける仕組みは解消されない

・・・しかし、ここでよく考えて頂きたい。発注元はリスクを減らせるので問題ないかもしれないが、受託企業は技術者を派遣する形態であるため、いままで述べたように「1人=1プロジェクトの縛り」が発生するので、これまでに述べた課題が何も解決せずにそのまま存在することになる。

つまりこれは、発注側のリスクを受託側に転嫁したに過ぎない。そして、それを大々的に行っているのが、元請けのプライムベンダや、大手のソフトウェア受託企業ではなかったか。中小のソフトハウスは発注側のリスクを負担する形で用いられているのだ。そしてそれが現在の多重下請け構造を生み出したのである。

となると、中小ソフトハウスが更なる下請けの利用を行ったとしても、固定費を負担するというリスクを他に転嫁したに過ぎず、根本的な解決にはならないだろう。そもそも下請け企業である時点で、更なる下請けに出すことが難しいという状況もあろう。我々は、こうした下請けソフトハウスの現状について見てきたのだ。そのため、仕事が来てもどんどん外注に出せるプライムベンダの現状を述べることは適切ではない。

●受注・派遣型ビジネスモデルには限界がある

人件費という固定費を最終的に負担しているのは誰なのかを探っていく。人件費という固定費は、途中経過をたどると外注というかたちに変化するが、最終的には最下層のソフトハウスに行きつくのだ。最終的なソフトハウスは外注先がないので固定費としてそのリスクを甘んじて受け入れるしかない。

ただし、最下層のソフトハウスは高額の固定費をどんどん抱えることはリスクが高くてできなくなる。となると、むやみやたらに従業員を抱えることはままならなくなる。そうするとどうなるか。自社の資本力で固定費(人件費)を抱えられるだけの従業員を採用し、資本力の天井にぶつかったところでそれ以上の成長ができなくなるのだ。

するとどうなるか。元請け企業は、他のソフトハウスに発注を行うようになる。他のソフトハウスが存在しないなら、中規模のソフトハウスからスピンオフさせて、そこに安く発注することも要求する。そのため、小規模のソフトハウスがたくさん誕生するのだ。

その結果、小さい規模の事業者全体によって、固定費というリスクを小分けにして分担するようになる。これが、プライムベンダを頂点とする下請け構造の実態である。これは、労働集約的な下請け構造を持つ業界すべてに当てはまる。建設業なども同じ構造を持っている。

景気が悪くなるとしわ寄せが下請けにくる理由や、下請けががなぜ安定的に成長できないのか、といった理由がここにすべて集約しているといえよう。

ソフトウェア業の下請け事業者について把握するために、以下のグラフを見てみよう。

以下の図は、経済産業省の平成22年特定サービス産業実態調査(確報)からみた、ソフトウェア業の従業者規模別事業所数のグラフである。

・ソフトウェア業の従業者規模別事業所数(平成22年度)
employee.png
(数値を平成22年特定サービス産業実態調査(確報) から参照し、グラフは当方で作成)

従業員数30名以下の事業所数は、業界全体の74%に達する。100名以下の事業所数は、全体の92%である。こうした中小のソフトハウスが、人件費という固定費を相互に分担する構造になっている。従業員数の違いは、会社の資本力・営業力・地域性などによって違ってきているものと推測される。しかし本質的には前述したように、その会社の財務力によって、どこまで固定費を抱えられるのかの天井が確実に存在する。このビジネスモデルを採用している以上、早晩かならず成長の天井にぶつかることになろう。

「なぜ自社は従業員が増えて、組織の規模が拡大しないのか」とお悩みの方は、ビジネスモデルを見直してみてほしい。当方の述べるビジネスモデルになっているのであれば、成長の天井が訪れるであろう。

以上の論述により、この業界の課題の1つであるコスト構造についての説明は終了である。中小のソフトハウスがハイリスク・ローリターン型のコスト構造を持ち、また成長しようにも資本力による天井が必ず存在するという、限界のあるビジネスモデルを持っていることが理解できたのではないかと考えている。

次回は特別編として、派遣型ソフトウェア業はどのようなビジネスモデルをとれば生き残れるのか、という話を若干してみたい。これについては当方の考えが中心となるが、何かの参考になれば幸いである。

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