情報サービス産業の今を俯瞰する(その4)

情報サービス産業の今を俯瞰する(その4)

しばらくはこのテーマでシリーズものをエントリをします。
また少しシリーズものをエントリします。

内容としては、情報サービス産業の現状を理解し、また中小派遣型受託開発ソフトハウスの課題や解決策を探るべく、ちょろちょろと以前に書いていたメルマガがベースになっています。

特定の企業だけでなく多くの中小派遣型受託開発ソフトハウスに当てはまる内容かと思っています。
ぜひご批評を頂ければと。
それではどうぞ。

現状の情報サービス産業についての情報展開のVol.4です。

自分たちの置かれている産業の実態、変わりつつある時流を感じてもらえればと思います。

●問題を我々の課題へ(その1)

1.前回までの振り返り

前回までは、多重下請構造と、業界慣行によって起きる問題について見てきました。
 
皆さんも仕事を行う中で、日々いろいろな問題や疑問が沸いていると思いますが、これまでに見るように、1つの会社だけの問題というわけではなく、この業界全体が直面している問題でもあります。
 
また、それとは別に今の会社内に閉じた問題を感じることもあるでしょう。一旦こうした問題を洗い出し、根本原因を1つ1つ丁寧に見ていくと、実は根本原因は同じということも多々あります。
 
 
 
問題解決のための初めの一歩は、まず問題を認識することです。これまでに挙げた問題以外にも様々な問題があると思いますが、まずは今まで挙げた問題を整理してみましょう。
 
整理することによって根本原因を明確にします。原因が明確になれば対策も打てるようになります。我々がこうした問題を解決するための方向性を手に入れることが、問題解決のための次のアクションです。
 
 
 

2.問題の整理

まずはこれまでに我々が認識した問題をリストアップし分類してみます。
 
 

NO 問題の内容 原因 分類
下流工程担当による価格競争の激化 下請 財務面
リスクが高く成長の天井のあるビジネスモデル 業界慣行
生産性向上が売上増加に直結しない 業界慣行
人材育成・スキル向上の取組みの遅れ 下請、業界慣行 人材面
優秀な人材を誘因する魅力ある職場ではない 下請、業界慣行
組織としての自律性・独立性の不足 下請、業界慣行 組織面

 
分類としては財務面、人材面、組織面の3つに分けられるのかと思います。財務面・人材面は、直接的に下請構造・業界慣行による影響を受けています。組織面は、下請構造・業界慣行の影響を受けてはいますが、問題の所在は組織内にあるので、外部環境を変えずとも問題を解決することはできそうです。
 
 
これらの問題について1つ1つ掘り下げてみましょう。
 
 

3.問題の掘り下げと、経営課題の抽出

(1)下流工程担当による価格競争の激化

これは、下流工程を担当することによる、単価の低下を問題としています。下流工程は比較的誰が担当しても同じ成果を出せるという性質があります。誰でも提供できる商品やサービスを扱っているということは、同じ商品やサービスを提供する競争相手(競合)がどんどん出てきますから、当然に競争が激化していきます。
 
このような、「他の企業と類似する差別化されていないプロダクトやサービス」を、コモディティと呼びます。
 
 
 
コモディティ商品やサービスは、競合と比較して本質的な優位性がありません。なので最終的には価格競争になってしまいます。これは、家電業界などを見れば、価格競争がいかに熾烈であるかを理解することができると思います。
 
経済学では、こうした価格勝負の市場を「完全競争市場」と呼びます。

経済学の結論では、「完全競争市場」においては、価格支配力は市場(顧客)にあり、商品を提供する企業は市場価格を受入れるしかなく(プライス・テイカー)、獲得できる利潤は最も小さくなります。
 
体力勝負になってくるので、資本力の小さい企業は淘汰される、最も競争が激しい市場です。
(弱肉強食の競争が激しい血の海という意味合いで「レッド・オーシャン」と呼ぶこともあります)
  
 
こうした体力勝負をしなければならない市場に、我々中小ソフトハウスがいつまでもいては厳しい状況になります。これまでは下請構造によって仕事を獲得できてきましたが、オフショアの伸長により、今後はどんどん競争が激化してきそうです。
 
 
 
では、どうやって価格競争から脱すればよいのでしょうか。
 
価格競争になる原因は、コモディティを扱っていることに起因します。 我々の提供するプロダクトやサービスが、他社と差別化され、競争優位を持っているのならば、価格競争から脱することができます。
 
つまり「顧客にとって価値のある強み」を持つ、ということです。
 
 
どんな強みを持つか(もしくは持っているのか)は、別途具体的な検討は必要になりますが、強みを持つことによって、次のような仕事を獲得できるという効果が得られると思います。
 
 
 ・より上流の工程を扱う仕事
 
 ・より顧客にとって価値の高い(インパクトの大きい)仕事
 
 

例えば、ある顧客が経営の成果を左右する基幹的なシステム導入を検討していたとしましょう。
 
この案件に対して上流工程から携わるというのは、システム導入のプランや具体的なインフラ面を検討できる、ということです。顧客の要望をヒアリングしながらシステム計画・導入を指揮するのですから、誰がやっても同じ結果になるような単純な仕事ではありません。
 
こうした仕事は担当者の代替が容易ではないので、それだけ付加価値は高くなります。
 
 
または、受託開発というサービス自体は同じでも、例えば派遣する技術者が全て高度資格の保有者であり、特定のシステム開発に強い、といったような強みでもよいでしょう。
 
その強みを欲する顧客からすれば、他の会社では代替できないため、付加価値が高くなります。
 
 
 
このようにして完全競争市場から抜け出せば、企業は価格決定者(プライス・メーカー)になれる、というのも経済学の結論です。
(競合の少ない独自の市場のことを、レッド・オーシャンに対して、誰も競争していない綺麗な海、「ブルー・オーシャン」と呼ぶこともあります)
 
 
低価格化の原因は、会社がコモディティを扱っていることでしたので、対策の方向性としては、何かに強み・競争優位を持ち、他者とは差別化されたプロダクト、サービスを提供するということが分りました。
 
 
なので(1)の問題を、自社の経営課題としてとらえると、
 

・高付加価値のプロダクト、サービスを提供する
⇒自社で提供するプロダクト、サービスを、「強み」をベースに差別化・高度化することで、高付加価値化する

 

といったことになります。これが対策の方向性です。

必ずしも下請という形態から脱出しなければならないというわけではない点に着目してください。下請として労働の切り売りをするにしても、差別化を行い付加価値を高める取組みは可能なのです。

(ここでいう付加価値は、高い売上高という意味とイコールです。単なる個人的なスキルアップとかそういったものは高付加価値にはつながらない場合があります。あくまでも顧客企業から多くのお金を頂戴できる具体的なものに昇華していないとダメです)
 
例えば当初は下請のままで付加価値を高め、その間にさらに技術を蓄積し、次のステップでは高付加価値のプロダクトを開発して販売する、といった、段階的なシナリオを想定することもできます。
 
そして、この想定したシナリオこそが、その組織の経営戦略といえるでしょう。
 
 
 
 
具体的な検討は、いろんな考えるためのフレームワークもありますし、組織で保有するの現在の資産をたな卸ししてみると、いろんなアイディアも思い浮かぶはずです。もちろん、現在の組織の制約もあるので、その中で実行できる具体案を採用することになるでしょう。
 
 
このように、問題の原因さえ明確になれば対策の方向性は自ずと見えてくると思います。
 
 
 
 
 

●次回予告

次回以降も、残りの問題について1つ1つ掘り下げていき、原因と対策の方向性を考えていきたいと思います。
 
 

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