情報サービス産業の今を俯瞰する(その2)
しばらくはこのテーマでシリーズものをエントリをします。
また少しシリーズものをエントリします。
内容としては、情報サービス産業の現状を理解し、また中小派遣型受託開発ソフトハウスの課題や解決策を探るべく、ちょろちょろと以前に書いていたメルマガがベースになっています。
特定の企業だけでなく多くの中小派遣型受託開発ソフトハウスに当てはまる内容かと思っています。
ぜひご批評を頂ければと。
それではどうぞ。
現状の情報サービス産業についての情報展開のVol.2です。
自分たちの置かれている産業の実態、変わりつつある時流を感じてもらえればと思います。
●多重下請け構造の功罪(その2)
1.前回までの振り返り
前回は、多重下請構造と、業界慣行の2つに問題がある点を指摘し、まずは多重下請構造についてメリット・デメリットを探っていきました。
結論としては、多重下請構造は委託側・受託側双方のニーズが一致しているために発生したものであることを見てきました。しかし、それによって賃金格差や組織力の格差、技術者のキャリア不安などの問題があることを見ました。
今回は、「人月単価での発注」「客先への常駐」という2つの業界慣行が、どのような問題を起こしているのか、またなぜこのような業界慣行が浸透しているのかを、メリット・デメリットから見ていきます。
今回も、直接的にわれわれに影響を与える問題だけをピックアップします。ぜひ、自分に当てはめた場合どうなのかを考えながら、リアリティを持って読んでいただければと思います。
※今は問題だけ取り上げていますが、その後にはこれら問題の解決のための方策をきちんと示したいと思っています。まずは問題認識の共有からということで・・・
2.業界慣行のメリット・デメリット
今回は「人月単価での発注」「客先への常駐」という業界慣行が、協力会社(受託側)に与えるデメリットから見ていきます。
「人月単価で発注されて、客先に常駐するのは普通のことでは?」と思っているとすれば、それ自体が業界慣行にどっぷり染まってしまっている証左かもしれません。
(1)生産性を向上させることは重要だ!
- 【受託側のデメリット】
- ・人月で発注された場合は、指定された頭数の技術者を客先に常駐させるため、いくら高い生産性で開発したとしても、組織の売上高アップ(利益アップ)にはつながらないので、組織が成長しない。
- ・人材育成やスキル向上がおろそかになり、組織の強みの構築ができない。
上記について、順を追って説明します。まずは、生産性について再確認します。
普通は、スキルや技術を磨けば磨くほど、短い時間で多くのアウトプットを出すことができるようになります。これを「生産性が高い」と言いますね。
お分かりとは思いますが、生産性とは、インプットに対するアウトプットの割合で示します。
アウトプット
生産性 = ──────
インプット
同じ時間で多くのアウトプットを出せる状態、もしくは、同じアウトプット量を少ない時間で出せる状態が、生産性が高い状態を示すわけです。
で、なぜ多くの企業が生産性の向上を掲げて活動しているかというと、生産性が高まるほど、売上高が多くなるからです。
例えば、ある工場で機械を使って1時間に10個の製品を生産できるとします。このとき、機械の使い方を工夫することによって1時間に12個の製品を生産できるようになったとしましょう。
生産性は、10個/H ⇒ 12個/H まで向上しました。となると、1時間あたり2個分を多く出荷できるようになったということです。1個あたり100円の製品だとすると、200円/Hの売上アップになりました。1日8H稼動する工場だとすると、200円×8H=1600円/Dayの売上アップです。
まったく同じ機械設備を用いているにも関わらず、生産性が向上しただけで追加の費用の発生もなく、売上がアップしました。これなら誰しもが生産性向上に取り組みたいと思うわけです。
翻って我々ソフトハウスを見てみましょう。生産性を向上させることができれば、それによって余った時間で他のプロジェクトを担当できるので、それだけ売上はアップします。しかも、生産を行っているのは工場では機械でしたが、ソフトハウスでは人間が担っているのです。創造性を働かせる事が最も得意な人間ですから、生産性向上に限度はありません。創意工夫を繰り返して、どんどんカイゼンすることができます。生産性向上の重要性は、我々ソフトハウスにも、そのまま当てはまるのです。
しかし、それならばなぜ生産性向上をもっと組織的に大々的にやらないのでしょうか。どこの会社でもスキルアップの名目で、個人に責任が帰属させられています。しかも、スキルアップする/しないが、評価に直結している組織もほとんどありません。
なぜなら、そこに問題があるからです。「人月単価での発注」「客先への常駐」という業界慣行によって、生産性を向上させても売上高がアップしない仕組みになっているのです。
(2)生産性を向上させても意味がない?
人月単価での発注とは、そもそもそのプロジェクトに携わるメンバの頭数を指定している意味合いも含まれます。また、業界慣行として、指定された頭数のメンバを、委託側に常駐させます。
人月単価なので、1月いくらで金額は固定されます。また、メンバが常駐することで、メンバの体も拘束されます。
となるとどうなるか。
いくら生産性を高くして早くアウトプットを仕上げたとしても、契約期間中はずっと客先に体が拘束されるので、余った時間で他のプロジェクトを担当することができません。
また金額も固定されます。いくらスキルを磨いて生産性を高くしたとしても、1ヶ月の金額は固定です。早く完了したことによって余った時間は、自分の余暇的な意味合いで単に消費されてしまいます。(同じ仕事を10年もやっているなら、ちょっとやそっとの作業は短い時間で完了できるはずです。そしてそれによって余った時間を単に個人的に消費してしまっていたら、絶対に生産性は上がりません)
つまり、人月単価と客先常駐という慣行によって、生産性向上をすることが売上アップにつながらないのです。
#このような、労働者の物理的な頭数によって仕事の量が決まる仕事を、
#「労働集約型」といいます。物理的な労働者が存在しないと仕事が進ま
#ないという意味です。
#
#しかしソフトウェアこそ、スキルや知識を集結させることで、少ない人
#数で高い生産性を生み出せる「知識集約型」の産業ではなかったのでし
#ょうか?本質的にはそうなのですが、業界慣行によって労働集約的な産
#業になってしまっているのです。
なので、売上アップをするにはどうすればいいか。生産性を向上してもだめなので、より多くのメンバを客先に常駐させればよい、という発想になります。
これが、生産性の向上よりも、多くのメンバを客先に常駐させるという営業的な活動が優先される理由です。そうなると、生産性向上のための活動は優先度が低くなりますし、それを評価しても売上に直結しないので、誰も気にしなくなります。
その結果、スキルの向上が遅れる、技術者の人材育成がおろそかになる、といった結果を招きます。
ただでさえ、下請構造によって上流工程のスキル向上ができないところへ、さらに業界慣行によって、生産性向上へのインセンティブが失われてしまっています。中小ソフトハウスは人材育成が組織力のキモであるはずなのに、そこがおざなりになってしまいます。
生産性向上への取組みが遅れるという事は、組織としての強みや売りがない、ということを示します。そんな強みや特色のない企業が、発注元へ営業活動をするとしても、そこは価格競争に巻き込まれてしまいます。
「なぜあなたのところへ発注しなければならないのか?」
「あなたのところの単価を上げる理由がない」といったことになり、どんなに顧客に営業したところで、今のご時勢では「強み」のない会社は、どうやっても価格競争から抜け出す事はできないのです。
(3)業界慣行が継続する理由
では、そんなデメリットのある業界慣行がなぜ継続しているのか。その理由を見るために、委託側・受託側のメリットを見てみましょう。
- 【受託側のメリット】
- ・人月単価だと、スキルが低い技術者でも固定で売上が立つ。人を派遣してしまえば、スキルが高かろうが低かろうが、固定で売上が立ちます。
- ・請負契約などで発注金額を見積るスキルや、リスクを保有する能力がなくても、金額を決定できる。一括定額で金額を見積るには、それ相応のスキルが必要です。また、リスクに備えた対応も必要になるのですが、そのスキルがなくても契約を締結できます。
やはりここのメリットも、受託側(協力会社)のスキル不足をカバーできる仕組みになっている点です。
人月単価が固定ということは、たしかに高スキル技術者を派遣すると、うまみがないのですが、低スキルの技術者を派遣した場合は、スキル以上の単価を得られるので、うまみがあります。
そのため、低スキル技術者が多い中小企業の場合は、この人月単価のしくみで救われているところがあります。
たとえば「技術者を5名で請負契約で」と要請されても、チームリーダが存在しなかったり、高スキル保有者が存在しなかったりしても、新人でも5名送り込みさえすれば売上が立つからです。
- 【委託側のメリット】
- ・一括定額契約だと、都度価格交渉が必要で面倒であるが、人月単価であれば、ベンダの言い値で価格支配力を発揮できる。発注価格についてベンダ側の圧力をかけることができる。
- ・発注のコスト構造が明確で、必要に応じて人月を増減させれば、細かい単位で発注価格を制御できる。委託側からして操作しやすいコスト構造ということ。
人月単価ではなく、システム全体の一括固定金額での発注の場合は、価格交渉などをして調整をする必要がありますし、コスト構造が一見してわかりにくいので、機能を削減して価格を下げるなどの煩雑な調整をしなければなりません。
しかし、人月単価であればコスト構造も人に括りつけられていて明確です。ちょっと金額が高いと思えば、人を1人減らせばいい、など微調整が容易です。また、人月単価を受入れてもらえれば、結果的に委託側の言い値で発注することが可能になります。
委託側からすれば、金額をコントロールしやすい発注形態である点がメリットです。
このように、双方のメリットがあるために「人月単価での発注」は浸透したと考えられます。
●次回予告
今回は、業界慣行である、「人月単価での発注」「技術者を派遣する」という点について、メリット・デメリットを見ていきました。
実はこの業界慣行によって、協力会社にもう1つ大きなデメリットが発生しているのですが、その説明を次回にしたいと思います。このデメリットは会社が成長できない根本原因になっている、とても根の深い問題です。
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>技術者を5名で請負契約で
準委任契約/SESでしょう。